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そんなとき。
「……詩絵?」
「あ」
背後からだった。
聞き覚えのある、しかし最も聞きたくない声が俺たちにかかる。
詩絵の顔がパッと明るくなったのを、俺は見逃さなかった。
「キリくんだ! おはようっ」
「おっと、おはよ」
声の主──キリに走り寄って、がばっと抱き付く詩絵。
そんな詩絵を愛おしそうに見て、微笑むキリ。
み……見たくない。
見たくない見たくない見たくない。
「あ! 樹だったか、久しぶりだなー!」
「ああ。久しぶり」
キリは俺に気付き、人懐っこい笑顔で右手を挙げた。
挨拶なんかいらない。
詩絵の背中に回した手を、離してほしい。
「おい詩絵、また樹に送ってもらったのか?」
「うん、お願いした」
キリは俺のスクーターと二人分のヘルメットを見て、困ったように詩絵に笑いかけた。
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