時を越えるアーチ

2/5
前へ
/14ページ
次へ
『ここで逃げたら、きっといつまでもオバケのまま』  その言葉を刻まれた時、ヴァレリーの中では激しい後悔の念が押し寄せていた。払いのけたいと思うほど強く、寄せては返す。  結局、死んで逃げようとしていたにすぎなかった。厳しい生活からも、息子を養う責任からも。これで全てが終わる、と決めつけて。 しかし、それは大きな間違いだった。 「私、死ねば何もかも終わりって思ってた……。その先の事まで考えてなかった。でも、そうじゃないのね……。人は、生まれ変わる」  最期の瞬間を覚えていなかったのも、きっと無意識にその記憶をないものとして排除していたのだろう。全てを放棄し命を絶った後でさえ、事実に目を向けようとしなかったくらいだから。 過去は取り戻せないし、変えられはしない。ならば、今、変わるしかない。 それが分かったからには、この思いを持って行く先が必ずあるはず、と。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加