3人が本棚に入れています
本棚に追加
「なぁ翠川」
私がまたプリントへと視線を戻そうとしたら、先生が私の苗字を呼んだ。
呼ばないで欲しい面倒臭い……と思ったが、これを言ったら流石に怒られるだろうと思い止めた。
ただ何だか嫌な予感がしたため、私は返事をしないで先生の方へと視線を向けるだけにした。
「今日の空も、綺麗だよな」
「……そうですね」
「こんな綺麗な空を、描いてみたいと思わないか?」
……嫌な予感が的中した。やはり私の予想通りだ。
というか、これが先生が私の所へ来た理由であり目的である。
先生が顧問を勤める、美術部への勧誘。
「お前なら、綺麗に描けるよ」
「……無理です」
「無理じゃない。お前が中学の時に描いた絵を見たことがあるって言ってるだろ?」
「いつの話をしてるんですか。勘弁してください」
私が中学二年生の時に描いて優秀賞をもらった絵を、県立の美術館に飾られているときたまたま見て、先生はその絵に惚れてしまったらしい。
だけど、絵は描かないし美術部にも入らないと頑なに私は拒否している為、先生は何度も当たっては砕けるということを繰り返している。
どうやら先生は、何としても私に絵を描かせたいらしい。
……絵を描くということを辞めた私には、正直迷惑な話である。
私はもう、絵は描かないとあの日決めたのだから。
最初のコメントを投稿しよう!