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「何でそんなに嫌なんだ? 俺の存在か?」
「自分で自分の存在を否定してどうするんですか。……別に、先生が嫌いなわけじゃないですよ」
「じゃあ、何でそんなに拒否をする?」
先生の顔はいつもと違ってとても真剣で、私は先生から机の上のプリントへと視線を移した。
「……理由を知って、先生はどうするんですか」
「翠川、」
「どうするんですか。私はもう、描かないって言ってるのに。描きたく、無いのに」
先生が私の苗字を優しく宥める様に呼んだ。
それがまた、私の中のぐちゃぐちゃとした黒いモノを大きくさせていく。
「先生、私はもう帰ります。窓と後ろのドアは閉めてあります。鍵をよろしくお願いします。さようなら」
教室の鍵を机の上に置いて、その変わりかの様に机の上の数学のプリントをファイルに入れて鞄に入れた。
「翠川、気をつけて帰れよ」
「はい、さようなら」
先生と目を合わせないで、鞄を右肩にかけて教室からさっさと出た。
イヤホンから、私の大好きな音楽を聞きながらいつもの廊下、いつもの階段を歩く。
……辛い。
先生と話をするのも、先生から美術部に入らないかと誘われるのも。
何より、絵を見ることが今の私には辛い。
好きだけど、できないこと。
やりたいけど、できないこと。
今の私には、絵を描くことはできない。
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