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「翠川さん」
誰かが私の苗字を呼んだ気がして、私は半分飛んでいた意識を引き戻し、顔を机から勢いよく上げて目をゆっくりと開けた。
いつもの日課で放課後に教室に残っていたら、どうやらそのまま眠りそうになっていたらしい。
私が顔を上げると、日直だったのだろうか。クラスの中心的な存在で、いつもニコニコと笑っている男子(名前は忘れてしまった。しょうがないからニコニコ男子と呼ぶ)が心配そうな顔をして立っていた。
教室の鍵を閉めたかったであろうに、申し訳ないことをしてしまった。
「ごめんなさい、日直でしたか? 鍵、閉めれないですよね」
「ううん、大丈夫。翠川さんはまだ教室に居るの?」
「えぇ、まぁその予定です。鍵、私が返しておきますよ」
できるだけの笑顔で名前の分からないニコニコ男子にそう言う。
部活とかもきっとあるだろうし、多分鍵を渡してさっさと行くだろう。そう思っていたのに、ニコニコ男子は首を横に振った。
「実は俺、翠川さんに用があったんだ」
「……私に、ですか?」
私に用がある?
私はこのニコニコ男子に何か失礼なことをしてしまっただろうか?
「翠川さん、此処でいつも授業の課題やってるよね?」
「えぇ、まぁ……」
「俺頭悪くてさ。いつも課題を皆から写させてもらってるんだ」
ニコニコ男子はそう言うと、私の前の席の人の椅子に座った。
……何だろう、嫌な予感がする。
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