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「あなたがあんな手紙を送らなければ、原爆なんてできなかったのに。
そしたら、一郎さんも死ぬことなんてなかった。」
私は銃口をアインシュタインに向け、引き金を引こうとする。
けれど、私の人差し指は震えて動かない。
一郎さんの笑顔が私の頭の中に浮かぶ。
「きよの手は綺麗な手だね。
誰も殺めたことの無い手だ。」
私は、震える手を動かし、引き金を引くことができなかった。
結局私は、銃を下し、アインシュタインから目を逸らし、足早に彼の研修室から出て行った。
彼を失ってしまった憎しみの気持ちはどこに持っていけばいいのだろう。
復讐すらも、一郎さんは許してくれないのか。
彼の最期はまるで化け物のようであったが、彼の心は私が初めて彼と会った時と変わらない、
まるで聖人君主のような、すべてを許容する優しい心のままであった。
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