1章

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朝の天気予報は大きくハズレ、激しい音を立て雨が降り続く中、一人の青年が鞄を傘代わりに走っていた。 細野春輝は携帯を濡れないように手で覆いながら時刻を確認し、額の汗と雨が混じった水滴を腕で拭いさらに足を速める。 大学に着き急いで講義が開かれる教室に滑り込むと、教室内の生徒の視線が一身に注がれた。 無理もない。 春輝の格好は雨に打たれ全身びしょ濡れで、おまけに長袖ときた。 今は夏なのだ。 しかし生徒達の視線など意に介さず、春輝は座れそうな席を探し、ある一角の席に座った。 ふぅ、とため息を一つつきタオルで体を拭いていると隣にいた男子生徒に声をかけられ振り向いた。 「何で隣座るんだよ」 そこには親友の柿野が心底迷惑そうにこちらを見ていた。 「席がここしかなかったからな」 髪の水滴をタオルで拭いつつ返す。 「そうだとしてもお前…隣を水浸しの男に座られるこっちの身にもなれよ。女ならばつゆ知らず」 間違いない。 すまん、と顔の前で両手を合わせると柿野も「しゃーねーな」と渋々許しをくれた。 「それよりどうしたんだ今日は?また遅刻か?」 「遅刻じゃない。間に合った」 「ギリギリな。あと何で長袖?暑苦しい」 柿野は見ているほうまで厚くなりそうな春輝の格好を見て言った。 「急いでて選んでる暇もなかったんだよ」 苦虫を噛んだような表情をして答える。 「ふーん、あいかわらずだな。それよりも今日の朝ニュース見たか」 唐突に柿野が尋ねた。 「見てないな、急いでたし。何で?」 「実はな、ここの近くの駅があるだろ?白鳥駅。そこで銃持った男二人が捕まったらしい。一人はプラスチック爆弾まで持ってたらしいぞ」 「爆弾!?」 予想だにしなかった柿野の言葉に思わず声を上げてしまい、またも生徒一同の視線を浴びてしまった。 白鳥駅は春輝の住んでいるアパートから徒歩十分という近場である。 そんな大きな事件が近所で起きていたなんて知りもしなかった。 「怖ぇーよなー」 他人事のように呟き人差し指と親指を立て銃を撃つ真似事をしているが柿野を尻目に、春輝は事件の事が気がかりでいた。 何だか妙な胸騒ぎがし、春輝は駅がある方角を窓から眺めた。 空はより一層淀み、雨は激しさを増していた。
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