始まり

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「おい、あんまりうろうろするなよ。」 「‥分かってるよ。」 桂木陽菜、17歳。 制服のスカートの裾をひらっとさせながら、幼なじみの村山源太を振り返った。 今日は、学校帰りに、源太のおばさんの洋館に寄っていた。 源太のおばさんは、この近辺では、少し名の知られた占い師で、陽菜は、長い間頼み込んで、やっと源太につれてきてもらえたのだ。 物珍しそうに、室内を見回す陽菜に、源太は閉口していた。 「‥なんだって女はこんなんが好きなのかね。」 暗い室内。 中央に置かれた机の上で怪しく光る水晶玉。 「‥こんなん、インチキだろ。」 源太は知っていた。 おばさんが高級な車を乗り回し、流行りのブランドバッグを持ち歩いて、羽振りがいいことを。 その上、ホストクラブに通い、若い男に貢いだりしていることも。 「こんなんで、よく金を払う気になるよ。」 陽菜は、最近好きな人ができたようだ。 今回の占いでは、その男の子との相性を見てもらうらしい。 源太はそれも、面白くなかった。 だから突然、陽菜が、 「なんか緊張してきちゃった。 トイレ‥いきたいんだけど‥。」 と、言い出したときには、いい考えが頭に浮かんでにんまりしてしまった。
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