私たちは既に出会っていた

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ぐつぐつ煮込まれた茶色のスープにざく切りトマトを突っ込んで、火を中火に調整した。 蓋をして少し煮込む。その間に手を洗って、新調したオレンジ色のエプロンで水気を拭った。なんら変わりない、いつもの夕飯。 ピンポン、ピンポン。 来客を告げる音が部屋にこだまして、普段はあり得ない訪問者に慧愛の心臓がどきりと跳ねた。 (郵便…?いや、なんにも頼んでないし…。誰だろ、大学の友人とかだったら、いやでもこんな時間に来るとか聞いてないし…) 自身のケータイを手にとって、メールボックスを開いてみるけれど、最期の連絡を取ったのは大学の同じ心理学科の友人だ。 その内容も『明日から冬休みだねー!』というなんともお気楽なメッセージ。 ピンポン。ピンポンピンポンピンポン。 「ひー…!」 恐怖だ。怖すぎる。誰だか知らないが私でも友人を呼び出す時にインターホン連打なんてしたこと……あ、あったかもしれないけど。 何かあった時用にと、お玉を右手に握りしめて覗き窓から外を確認した。 「…誰も居ない…?…ひっちょっと待って、なにこのホラー。どうしよう、誰か呼び出す?っていうか召喚?もう召喚されちゃってるのここに?」 頭は完全にパニックだ。
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