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チーフアシスタントの豊と一ヶ月前に入ってきたばかりの新米アシスタント北原悠介にはまだ仕事が残っている。
祐希の使用した機材をそれぞれのケースに収め、祐希の事務所に戻り、機材に故障がないかチェックをする仕事が残っている。
二人は自動車に機材を積み、事務所に向かった。
豊の腕時計は午後四時を指していた。
今日は豊の三十五歳の誕生日。七時に恋人のマンションで誕生日を祝ってもらうことになっているのだ。
充実した仕事と私生活。
それと今日は豊にとって特別な日にしたいという思いがあった。
それを思うと緊張するが、それ以上に今日、彼女と一緒に過ごせるということが豊にとっては幸せだった。
機材のチェックをしている間も、自然に顔に笑みが浮かんでくる。
そうこうしていると、豊は六時四十分を過ぎていることに気がついた。
「そろそろ、あがるぞ」と新米アシスタントの北原に声をかけた。
「わかりました」と北原は元気よく答えた。
急ぐことはない。
彼女のマンションはこの事務所から歩いて十分分もしない場所にある。
豊は事務所の戸締まりを北原に任せ、彼女が待つマンションに向かった。
彼女のマンションにエントランスに着くと、彼女の部屋番号のインターフォンを押した。
「豊です」
「はい、どうぞ」と彼女の元気な声がした。
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