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「あのね、豊。誕生日だから今日言おうと思っていたことがあるの」
「何?」
豊はワインを口にしながら尋ねた。
「豊は私のアシスタントになって何年になるかしら?」
「俺が脱サラしたのが三十二歳の時だから、三年になるね」
「そろそろ、豊も独立したほうがいいと思っているの。今の豊の技術を持ってすれば、一人でも十分やっていけると思うわ」
豊は少し黙った。
「確かに俺も祐希に頼らず、早く独り立ちしなければならないと思っている」
豊は独立について、以前から悩んでいた。
豊は三十二歳でサラリーマンを辞めるまで、素人カメラマンとして写真を撮ることを趣味としていた。
しかし趣味だけでは物足りなく、プロになることを三十歳過ぎてから目指した。
豊は運が良かった。
当時から売れっ子の商業カメラマンである矢野祐希が大学時代の友人の知り合いだったのだ。
豊は友人に頼み込んで、矢野祐希に会わせてもらった。
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