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祐希と会って豊は少し驚いた。
矢野祐希というカメラマンは男とばかり思っていたからだ。
彼女の取る写真は艶のある女性の写真ばかりだったからだ。
豊は祐希にアシスタントになりたいと告げると「ちょうどアシスタントを募集していたのよ」と言われ、すんなり就職が決まった。
当時、祐希は豊と一つしか違わない三十三歳だった。
そして豊好みの美しい女性でもあった。
豊にとっては完璧な女性だった。
尊敬が恋となり、自然のうちに愛に変わり、豊の猛烈なアタックで一年も経たずに祐希と恋仲になった。
独立については豊もいつも考えていることだ。
いつまでも彼女に甘えることはできない。
しかし、豊と祐希をくらべたときに決定的に違うのは才能であった。
自分には祐希のような、被写体の良さを引き出し、そして今にも動き出しそうに写し撮る才能はないことに気づき始めていた。
独立したとしても、祐希のような大きな仕事は出来ないだろう。出来てウェディングのカメラマン程度だろう。
「そのことは考えているよ」と豊はお茶を濁した。
「本当に真面目に考えてほしいのよ。いつまでもアシスタントだと、豊の腕が上がらないわ」
「うん」
「考えておいてね」
「ところで俺、祐希のことを、本当に大切な人だと思っているんだ」
「うん、ありがとう。私もよ」
「それでね、祐希と結婚したいんだ」
「え?」
祐希が想像もしていない言葉だった。
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