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皆大人になったんだと、痛感した。背丈が、声が、中身さえ。
隔たりが確実なものになるのに、もう、時間はそういらない。
ピーターパンは、大人になる前に死んだ子供なんだと、あの夕暮れ、言っていたのは誰だっけ。
『空を飛ぶのに、妖精の粉なんて要らない。』
その台詞が今も、ぐるぐると──
日が暮れるまで練習して、日が暮れて暫くしてその事に気付いて、慌てて帰るのがオレ達の日課だった。
ある程度の人数が集まってとりとめもない話をしながら帰るのもそうで、いろんな話をしたことを覚えている。もっともその内容はあまりよく思い出せないのだけれど。
その日は季節外れの怪談が何の拍子にか始まって、妙に盛り上がった。もうあれから大分たったのに、まだはっきりと覚えている。
「必要なのは自己暗示さ。只の子供に、君は空を飛べるんだと言っても、誰も信じやしないだろ?」
「まぁ、そうだよな。」
誰が話していたんだっけ。話し方も声も、はっきり覚えているのに、誰なのかはわからない。
静かに、けれども響くその声は、確かに怪談を語るには向いていた。話す事と言えば都市伝説に近いような、ありふれた内容だったけれども。
「──それで、死んだ事に気付かない子供に暗示をかけて、空の向こうにあるネバーランドって名の天国へ連れていくんだ。」
ひとりが寂しいから、ピーターパンは道連れを探してる。時には死にかけた子供を向こうに連れていってしまうんだって、なんてもっともらしく彼は言った。
身震いした半田達を見るに、相当怖かったらしい。
当のオレはといえばこの手の話は娯楽としては好きだけれども全く信じてはいなかったから、今度宮坂か真刃にでも話してやろうかと思っていたはずだ。
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