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娘と出会ってから半年ほどたった頃、その時は訪れた。覚悟はしていたはずであったが、実際に直面してみると予想以上の悲しみに襲われた。楽しかった日々が、自然と思い起こされて、それが少年の悲しみに拍車をかけた。
「明日、この街を発ちます」
工房を訪れた娘は、どこかいつもとは違う雰囲気でか細くそう言った。いつもと違う、少し切なさを含んだ笑顔を少年に向ける。
「ごめんんさい。もっと早く言おうと思っていたのだけど、なかなか言い出せなくて」
「そうか……」
少年はただそれだけ呟いた。
そして机の引き出しからひとつの小箱を取り出して、卓上に置いた。それを娘の方へ差し出す。
小首を傾げながらそれをじぃと見つめた娘が、不意に少年を見た。もはや見慣れた、美しい煉瓦色の瞳を、改めて綺麗だと思った。
「開けてもいい?」
少年が頷いたの確認して、娘の白く細い指が丁寧に小箱のふたを開く。
「――わぁ」
静かに、感嘆の声が漏れ出した。
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