4人が本棚に入れています
本棚に追加
華奢な両手を口元で合わせた娘は、その瞳を大きく瞠った。着物の、広い袖がふわりと舞った。
娘の瞳が愛おしげに細められる。
(――あぁ、絵になるなぁ)
少年はその光景に見入った。娘の美しい姿は、彼女の故郷の花を連想させた。儚く舞い散る、淡紅色の花びらが確かに見えた気がした。
「きれい……」
娘の、形の良い唇が呟いた。意図せず溢れた呟きのようだった。
小箱の中身は少年が作ったマキナ・クロックだ。希少な淡紅色の金属を使い、彼女を思わせる花を蓋に彫り込んだ、渾身の一品であった。
もちろん見てくれだけではなく、中の機械仕掛けも最高傑作だった。ひとつひとつの歯車を、彼女を想いながら丁寧に仕込んだのだ。もうこれ以上の作品は、生涯をかけてもできないのではないかと思われるほどであった。
最初のコメントを投稿しよう!