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ようやくすべての工程を終え、青年は手にした工具をそっと置いた。
長時間に渡って、精密な作業を行っていたため、ひどく目がしょぼついていた。ぎゅっと強く目を閉じて全身の力を抜く。自然に、大きな吐息が漏れた。慣れ親しんだ工房の匂いが妙に心地よい。
しばらくそうしていた後、青年は、手ずから丹精込めて仕上げたマキナ・クロックを手に取った。
手のひらに収まるサイズのマキナ・クロック。しかしその技術は、歴代の職人たちの知恵の結晶であり、そして青年の努力の賜物でもあった。
円形のフォルムに、品のある銀色の金属光沢。その蓋に彫り込まれた美しい花びらは、あのとき目にした幻想の花びらだ。
青年がその蓋を開ける。二枚貝が開くようにして現れた内部は、白地に刻まれた文字盤と、大小二つの指針、そして最も小気味よく時を刻む、小枝のような指針だった。
上部に取り付けた螺子を丁寧に回しながら、自然と頬が緩んでいくのを、青年は感じていた。この瞬間は、いつだって青年に幸福をもたらしてくれる。
カチリ。カチ、カチ、カチ……。
マキナ・クロックが心地よい音色で時を刻み始めると、青年はゆっくりと瞼を閉じた。歯車の噛みあう音を遠くに聞きながら、青年の瞼の裏側には、あのときの光景が浮かび上がっていた。忘れることのできない、生涯で一番、心から綺麗だと思った光景。
カチ、カチ、カチ……。
遠のいていく歯車の音の向こうに、青年は懐かしい声を聴いた。
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