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「巧いものですねぇ」
「うわぁ!」
突然耳元に響いた声に、少年はあやうく手元を狂わすところだった。すんでのところで工具を持ち直し、慌てて製作中のマキナ・クロックから手を引いた。
気付くと、見知らぬ娘が、少年の手元を覗き込むようにして隣にいた。作業机に向かった少年の後ろから、少年の肩に顎を乗せるような体勢である。今にも頬が触れ合いそうな状態に、少年はどぎまぎした。
少年の反応に驚いた娘は、ぱっと体を離す。
「ご、ごめんなさい! そんなに驚かれるとは思わなくて……」
銀糸をそっと指で弾いたように、深く空気に溶け込んでいく声だった。
「あまりに見事だったので、つい」
自分より、三つか四つは年上であろう娘が、悪戯のばれた子供のように笑う。少年はその笑顔に思わず見惚れた。
「あ、いえ……いらっしゃいませ……」
なんとか言葉を発しながら、少年はあらためてその来客を見た。
見慣れない衣装を着ていた。淡い色の下地に青葉の意匠をあしらった長着を、腰の位置に結んだ帯で体に固定している。袖の部分が妙に広く、それが娘の楚々とした立ち振る舞いとひどく似合っていた。
確か、和の国の衣装だと、少年は記憶を呼び起こした。
女性としては短めの髪は、衣装のものより淡い青葉色で、蝶や花を思わせる髪飾りをしている。驚くほど肌が白いが、それは極めて健康的なもであった。白い肌に、深い煉瓦色の双眸と、淡紅色の唇が美しく映える。
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