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儚げながらも、命に満ちた力強さを感じさせる娘であった。
「店先に飾ってらした品が、とても綺麗だったので、思わず入ってきてしまいました。ここは、なにを売ってらっしゃるお店なのですか?」
娘が興味深げに、製作中のマキナ・クロックを見た。
「マキナ・クロックです」
異国の言葉であろうに上手く話すもんだなと思いつつ、少年は簡潔に答える。もう少し愛想よくすればよかったと、後悔の念が頭をよぎったが、それは少年の苦手とするところだった。
しかし、そんなことなど気に留めた様子もなく、娘は小首を傾げた。いちいち振る舞いが絵になる。
「マキナ・クロック……ですか?」
「あなたの国にはないですか? 機械仕掛けの時計のことです」
「時計……確か、時を刻む道具ですよね? へぇ、初めて見ました。綺麗ですね」
店内に所狭しと飾られたマキナ・クロックを嬉しそうに見渡しながら、娘は目を輝かせる。その様子に、苦い思いが少年にのしかかった。
「今店にあるのは、ほとんど父の作品ですが……」
「お父様の?」
マキナ・クロックに見入っていた娘が、少年に目を向けた。
「父は先日病で亡くなってしまって。この店は俺が継いだんです」
少年は務めて明るく言ったつもりであったが、この言葉に娘の瞳が大きく揺れた。少年は敏感に、娘の心情を感じ取る。
「俺は職人としてはまだまだ未熟ですけど、一通りのことは父から学んできましたから、これから父に追いつけるよう頑張るつもりです。納得のいく作品ができたときは、是非あなたも見に来てください」
なんとなく気遣われるのが嫌で、そんなことを言った。
娘はそんな少年の心を察したのか、柔らかく微笑んで見せた。
「はい。楽しみにしていますね」
ただそれだけの言葉が妙に嬉しくて、心地よかった。娘の笑みに、少年は久方ぶりに安堵の熱を抱いたのだった。
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