デウス・エクス・マキナ

6/15
前へ
/15ページ
次へ
「良い育ちって……!」  腹のそこから熱い何かが込み上げてきた。  この人は分かっているのだろうか? 自信を持っているものが認めらず、それでもそれにすがりながら、生きていかねばならない焦燥を。そして、先の見えない長い道を、たった一人で歩まねばならない孤独を。  ふとすると醜い感情を娘にぶつけてしましそうになり、少年は必死に自分を押し殺そうとしていた。  そんな少年に、娘は優しく声を投げかける。 「お父上のことは、お気の毒だったと思います。でも、貴方には、お父上が残して下さったものが、ちゃんとあるでしょう?」 「父さんが、残してくれたもの……?」 「貴方、言ってたじゃないですか。自分は父のようになる、なれるって。焦ることはありません。すべきことをしかっりやっていれば、結果はいくらでもついてきます。貴方にはそれだけの技量があるのですから」  素人に保証されてもと一瞬思ったが、不思議と嫌な感じはしなかった。煮えたぎった感情はいつのまにか落ち着いて、穏やかな温かさだけが残っていた。 「大丈夫。貴方は良い経験をしている。それを活かすだけの人柄も持っている。きっと、素敵な大人になれるわ」  娘の言葉には、得体の知れない力強さがあった。  気づくと少年の道には、仄かな灯火に照らされていた。 「素敵な大人って……。あなたも、まだ子供じゃないですか……」  なんとなく気恥ずかしくなって、少年が視線を逸らすと、 「そうですね。私も、まだまだ知らないことばかりです。だから、いっしょに成長しましょうね」  娘はくすくすと笑ったのだった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加