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「良い育ちって……!」
腹のそこから熱い何かが込み上げてきた。
この人は分かっているのだろうか? 自信を持っているものが認めらず、それでもそれにすがりながら、生きていかねばならない焦燥を。そして、先の見えない長い道を、たった一人で歩まねばならない孤独を。
ふとすると醜い感情を娘にぶつけてしましそうになり、少年は必死に自分を押し殺そうとしていた。
そんな少年に、娘は優しく声を投げかける。
「お父上のことは、お気の毒だったと思います。でも、貴方には、お父上が残して下さったものが、ちゃんとあるでしょう?」
「父さんが、残してくれたもの……?」
「貴方、言ってたじゃないですか。自分は父のようになる、なれるって。焦ることはありません。すべきことをしかっりやっていれば、結果はいくらでもついてきます。貴方にはそれだけの技量があるのですから」
素人に保証されてもと一瞬思ったが、不思議と嫌な感じはしなかった。煮えたぎった感情はいつのまにか落ち着いて、穏やかな温かさだけが残っていた。
「大丈夫。貴方は良い経験をしている。それを活かすだけの人柄も持っている。きっと、素敵な大人になれるわ」
娘の言葉には、得体の知れない力強さがあった。
気づくと少年の道には、仄かな灯火に照らされていた。
「素敵な大人って……。あなたも、まだ子供じゃないですか……」
なんとなく気恥ずかしくなって、少年が視線を逸らすと、
「そうですね。私も、まだまだ知らないことばかりです。だから、いっしょに成長しましょうね」
娘はくすくすと笑ったのだった。
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