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娘は行商人の父親と共に、あちこちを旅して回っているらしい。
生まれてこの方、ろくに故郷を出たことのない少年にとって、娘の話は刺激的で興味深いものだった。また、娘の汪々たる価値観は、少年の世界に新たな息吹をもたらしていた。
「マキナと言えば、以前行った村で、”デウス・エクス・マキナ”という言葉を聞きましたよ」
隣を歩く娘が突然そんなことを言った。少年は、娘のゆったりとした歩幅に合わせるのに苦労していた。
食材の買い出しに行くから手伝ってくれと頼まれ、店が休業日だったのもあって了承したのだが、娘は買い物をする素振りなど見せず、むしろ街の散策を楽しんでいるようであった。
”デウス・エクス・マキナ”の名は少年も知っている。確か、解決不能の困難な状況に陥ったとき、絶対的な力を持った神が現れ、全てを解決してくれるという言葉だったはずだ。
「”機械仕掛けの神”ですね。俺も知ってますよ。……でも俺は、あまり好きじゃありませんね」
「どうしてですか? 私は良い響きの言葉だと思いますけど」
娘はさも楽しそうに尋ねた。
「マキナは一つ一つの歯車が噛み合って、それが行き着いた先に、結果をもたらすんです。マキナの名を語るくせに、神様の力でいきなり全てがなんとかなってしまうなんて、なんだか許せないじゃないですか。”デウス・エクス・マキナ”には、因果関係が欠落しています」
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