-序章-

2/5
68人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
『岡田以蔵が斬首された』 淡々と告げる男に座敷牢の中の男は目を伏せた。 男…武市半平太は岡田以蔵と一つの約束を交わしていた。 捕縛された時は無駄な抵抗はせずに、素直に話せと。 どの道捕まれば助からぬのだから、無駄に苦しむ必要はないと、武市は岡田に言っていた。 だが、全てを話せば武市は死罪となる。故に岡田は武市の言葉に頑として頷かなかったのだが、そんな岡田に武市は非情な命令をした。 自分が岡田に毒物を送った時は、全てを話せという命令だと。 全てを話せば、用済みの岡田はすぐに死罪になる。 自分が岡田の死の引き金を引く事となるが、代わりに岡田にも自分の死の引き金を引くように武市は命じたのだ。 その岡田が斬首された。 ならば、岡田は命令通り全てを話したのだろう。 武市は先日、岡田に毒物を送っていた。 捕らわれの身とはいえ、確たる罪の証拠が無い武市には多少の自由が認められており、岡田に差し入れをする程度は簡単だった。 武市は静かに深呼吸をすると、男を見た。 『…ならば、次は私か』 岡田が全てを話したならば、自分に待つのは死のみだ。 武市は穏やかな顔を見せていたが、その表情は次の瞬間凍り付いた。 『…いや。忌々しいが貴様の罪の証拠がない。岡田以蔵も他の土佐勤王党の奴等と同じ様に一言も口を割らなかった』 一言も口を割らなかった…?
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!