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5話
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時刻は既に、午後七時を回っていた。
それなのに、厨房内には未だに料理の形どころかその片鱗すら見えない状態が続いている。
業務用の大きなガスコンロの前には、加賀に代わり今は彰吾が立っていた。
その周囲では、掃除を言い付けられた加賀がちょこまかと忙しなく動き回る姿がある。
「加賀さん、このお皿はどこにあったんですか?」
トントンと、軽やかな音色を響かせる包丁の音を聞きながら、僕は調理台の上に散らばる食器類を片付けていた。
彰吾は家事に慣れているらしく、その包丁捌きは見ていて不安を感じない。
やっと一歩前進しはじめた行程にほっと安堵しながら、僕は調理台の上に無事な皿を積み上げて行った。
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