冷たい瞳の末路

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 「全軍、撤退しろ!!」  怒号のような指示を受け、ネフィリス解放戦線のメンバーは敵に背を向けて走り出した。  敵の追撃はない。否、追撃は、出来ない。  殿に門番のように立つ男を、突破出来る者がいないのだ。  その男の瞳は影のように冷たく、髪は闇色。携える剣は毒々しい黄金色をしている。  冷徹のメルランと呼ばれて久しいその男は、王国最強の戦士。敵にも味方にも情けを持たず、ただ任務の遂行だけを考えると言われる、忠義の人。一度剣を抜けば血液の雨が降ると云う。  「退け。さもなくば、斬る」  メルランは刃のような冷たい瞳で敵のいる方向を見据え、呪文を唱えるかのように言った。  ただそれだけ。ただそれだけで敵は散り散りに、一目散に逃げ出すのだった。  「まだ、相手の俺に対する恐れは有効らしい。しかし、多勢に無勢……このままでは戦線の全滅も時間の問題だな」  呟いた言葉は戦死者にしか届かない。  メルランはスッと反対方向へ向き直り、味方が逃げた先へと歩き始めた。
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