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次の日―――
夏凛の家は朝から慌しく引越しの作業をしている。
僕はそれを手伝う事もせず、ただ自分の部屋の窓から見下ろしていた。
額に浮き出た汗を拭う夏凛を見下ろして、どこか感傷に浸っている自分がいた。
もう、夏凛の顔はしばらく見られないのか、と思うと心苦しくもあったが、しかし、僕たちは約束した。
必ず再会しよう、と。
お互い好きでい続ける、と。
だから僕は、見送りもせず、その作業を見守っていた。
これ以上何かを話してしまうと、余計に離れるのが嫌になってしまうから。
ふと。
顔を上げた夏凛と目が合った。
僕は驚いて固まってしまったが、夏凛は唇に人差し指を当てながら何か喋った。
部屋の中にいた僕にその言葉は聞こえなかったが……いや、実際には何も言っていなかったかも知れないが、その唇はこう言っている様に見えた。
『やくそくだよ?』
……それはお互い様だろう?
僕は何も言わずに微笑み返し、車に乗り込む夏凛を部屋から見送る。
徐々に遠ざかっていく車を見ながら、僕は既に夏凛と再会できる日を夢見ていた。
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