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それからすぐ。
夏休みに入る前、1学期の終業式の日に夏凛の転校が伝えられた。
父親の転勤で明日シアトルの学校に転校する、と担任の先生が言っていた。
6月の末から決まっていた事ではあったらしいが、突然された発表に教室内は騒然として、教壇の隣に立たされた夏凛に視線が集まった。
そして、口々に漏らされる驚きと戸惑いの声の中、夏凛は今にも周りに飲み込まれそうな声で言った。
「本当、なんだ」
でも、と夏凛は続ける。
「向こうに行っても皆の事は絶対に忘れないからね!」
驚かなかった、と言えば嘘になってしまう。
しかし、その時の僕には驚き以上にショックが大きかった。
そんな事、夏凛の口からは一言も聞いていない。
それはつまり、僕は夏凛にとって重要な事を話す様な関係ではない、と僕は捉えてしまっていた。
皆が泣きながら夏凛との別れを惜しんでいる中、僕は一人俯いていた。
夏凛と目が合うのすら怖くて、ただ、足元を見ていた。
夏凛が心配そうに僕を見ている事に気付かずに。
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