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その頃
地球の裏側に位置するチェケ国のオーディン山の頂では、一人空を見上げる金糸の青年が居た。
酸素は薄く、人間の立ち入りを許さない。
最も宇宙に近く、地球から最も遠い聖域。
周りに響くのは人の声ではない。
水の音、草木の擦れる音、そして動物の鳴き声。
青年はずっと遠くの雲を眺める。
「来た・・・」
小さい点のようにうっすらと見えたのは白い翼を持つ鷲。
鷲はぐんぐんとスピードを付けながら青年のもとにやって来た。
「さすがに早いな、どうだった下は」
男の言葉で腹を立てたように翼を大きく動かした。
「悪かったっ・・!!ったく、お前、そんなに人間が嫌いか?」
はははと苦笑しながら鳥の首元を優しくなでる。
「わかってるよ、ばれないようにする」
鷲が灰色の瞳で男を見つめる。
「大丈夫だ、
俺は神だからな」
ピーピーと叫びながら、男が進むのを邪魔するかのように飛び回る。
「止めても無駄だ。俺は・・潤しに行ってくるよ」
ー水が乾けば
蛇口をひねればいい
見捨てないさ
生物は俺の魂だからー
男は山の頂きにある大きな湖の前に立った。
この世のものとは思えないほど美しい姿が鏡となって湖に映し出される。
湖に足を入れ、真ん中まで進むと湖がまるで意思を持ったかのように神々しく輝きだした。
男の姿は光の粒となって湖の中に消えた。
「あれ?蛍?」
有希は空を見上げるといきなり声を上げた。
「?何も見えんよ、第一今春やろ?それに東京に蛍が居るわけないやん」
「でも今光が見えたんだよ」
有希の声に裕はニヤニヤと笑いながら「とうとう寝不足で目がイカレタんか?」と笑う。
裕の発言に舌打ちすると「もういい、下ろせ」と裕のライダースを引っ張った。
裕のバイクの後ろから降りて、ヘルメットを返す。
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