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今でも付き合いが有るなら、携帯電話に電話番号やメールアドレスが登録されているだろう。しかし、携帯電話は現在押収されている。ちなみに、身元は割れているし、報道もされているが、身内が警察にやって来たという知らせは今のところ、無い。
何か、手帳にでも、友人達の住所が書いてないだろうか。そして、隠されていた写真の女性は一体……?
「オラァ!何ぼんやりしてんだ、どアホゥ!手を動かせや!」
井口さんからどやされて私は我に返る。
一番目を引いた本棚の他には、1人暮らしには勿体無いくらいの液晶テレビと、申し訳程度の冷蔵庫。洗濯機。ガスレンジも使っている形跡はあるものの、冷蔵庫の中身から察するに、良いとこ酒のツマミを作るくらいの使用状態らしかった。
この部屋には他にトイレとバスルームと寝室・クローゼットがある。クローゼットを井口さんと一緒に覗いて、私は唖然とした。あまりにも――
違う。
それが、第一印象だった。何が違うか。大沼は、遺体として発見された時、如何にも。と表現出来そうな、サラリーマン風体だった。茶色の、私も買いに行くから判る紳士服チェーン店の一着数万円のスーツ。
スラックスがもう1本オマケ。なんていう代物だ。それでも、刑事という安月給ではなかなかに高価な一品と思える代物。
大沼が発見された時は、確かにその店のスーツを着用していた。このクローゼットの中のスーツも、やはり何点かは、その店のスーツだが。
むしろ、見るからに高級そうな肌触りのスーツが多い。実際、確認してみれば、チェーン店とは違う、横文字の店名がタグに書かれている。暫くぼうっとしていた私の横で、意外そうな声音で井口さんが呟いた。
「被害者(ガイシャ)は只者では無いのかもしれんな」
その呟きで我に返った私は、確かにそう思うしかなかった。普通のサラリーマンが着るような服では無い。どこかの会社社長ないし幹部と言うならば、あるいは疑問を抱かなかっただろう。
もし、そうだとするならば、今度は部屋の質素さが気になるが。冷蔵庫のツマミが高級ハムやチーズ等が有れば納得したかもしれない。酒もスーパーで売っているような品では無く、一級品等で有れば。
しかし、部屋の内装を含め、私の部屋とそう変わらない質素ぶり。どうしても、会社の幹部等の職にあるとは思えなかった。
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