クラス対抗訓練

3/4
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
 また単純に気温が高いだけでなく、装備も問題だ。学院支給のヘルメットと、厚ぼったい訓練服、八十九式自動小銃や中等部制式背嚢をはじめとする訓練用装備一式が、暑さに拍車をかける。  長太郎がスピードをあげた。まさしくこの暑さを吹き飛ばしてやろうかという勢いだったが、実際は早く戦闘に入りたいという気持からだろう。 「長太郎、少しスピードを落とせ! 鳥原が遅れだしている。それに訓練通り、もっと木を背に進め。敵がいたら蜂の巣だぞ!」  戦場に近付くにつれ、熱気を帯びていくクラスメイトに眞柴は声を荒げた。  後方にはもう一人、同じ訓練服に身を包んだ生徒が必死についてきていた。  眞柴達より一回り小さく、ボブに切りそろえられた髪が、今は激しく揺れている。普段から存在感がなく、あまり喋らない方だが、今は呼吸を大きく乱しているため、物理的に話せないようだ。眞柴のきついだろ? という目配せにも何の反応も示さない。 「なんの! 斥候の話だと交戦位置はもう少し先だろ! 俺達が急がなくてどうするんだよ! 仲間が、俺達の到着を今や遅しと待っているんじゃねえか!」  どこのアニメのセリフだよ、と眞柴は呟いた。  長太郎はヒーローオタクである。いや、オタクを通り越してヒーロー馬鹿だ。  お互い寮に入ってすぐ、この見た目は好青年の彼がヒーローのコスプレをし、寮内を駆け巡ったことを初めて目にしたとき、眞柴は正直、このクラスメイトに何かがあったのだと思った。自分の部屋に呼び、まだ長い付き合いではないが、何か悩んでいることがあったら、ぜひ相談してくれと語りかけた自分に、「それなら、どうやったらゴッドサンダークラッシュ(彼が今はまっている特撮の必殺技)が放てるようになる?」、と相談された時は唖然としたものだ。  だが眞柴自体、ある意味快活な長太郎の性格は嫌いではなかった。他のクラスメイトは冷たい視線を送ることが多いが、この体力的につらい訓練の中では励まされることも多い。 「東南……距離300」  不意に、後方を走っていた鳥原が息を絶え絶えに発した。そのまま東南の方を二人に目で促す。二人は慌てて立ち止まり、耳を澄ました。  確かにその方向から銃撃戦の音が聞こえる。 「うむ、俺を呼ぶ音がする!」
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!