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父が倒れた。 ハルは僕に早く実家に帰るようにと促したけれど、同じく首都圏にあるそこに急ぐなんてことはしなくていいと思って、次の日曜日を待った。 そして僕は現在の家への帰路についている。ハルとの家だ。正確に言えば、ハルの家。地方から単身で東京に出てきた彼女の四回目の引越し先に、僕は転がり込んでいる。ハルとの時間のために。 山手線は今日も蒸し暑くて息苦しい。 隣に立つ学生のイヤホンからビート音が響くけれど、最早誰一人として気にする様子もなかった。僕も単行本から目を離すことはしなかった。 一駅の区間は今日も短く、しかし停止信号で電車は止まる。電車の外を歩く男女は親しげに腕を組んでいた。 父が倒れた。家に帰る。母はきっと泣き腫らした目を細くして笑って僕を迎え入れるだろう。そして、姉は。 姉は。帰ってくるのだろうか、いやきっと帰ってくるだろう。たった一人の、肉親の、危機なのだから。 メッセージに「春子」の文字。早く帰ろうって、ハルに会いたいって、こんなときはひどく思う。  
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