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「私、春子っていうの」 隣の女性は話の区切りに、そう笑いかける。「ハル、ってみんな呼ぶわ」 「望。ノゾムって、みんな呼ぶ」 彼女は僕の名前に、へぇ、と呟くと、望、と何度か反芻して、またにこりと満面の笑みを浮かべた。29には見えないほど若く、しかしそれでいてふとみせる表情から色気を醸し出す。 ジントニックをこくりとまた喉に流し込むと、隣の彼女も同じそれを流し込んだ。 「望くん。良い名前だね」 「自分でも気に入ってる」 「いいなあ、私もそんなかっこいい名前がよかった」 「春子、って嫌なの?」 「嫌じゃないわ。まあ、在り来たりよね」 「でも、春子って、よく似合ってる」 春のように朗らかに笑う人だと、それがこの人への第一印象だったから。 ハルは僕の言葉に照れたように微笑むと、僕の頬も弛んだ。隣にいると落ち着く、そう感じもした。初めての感覚だ。心地よい、彼女の笑い声が、僕の胸に響く。 「明日も仕事だなあ」 「頑張れよ。私も仕事だ」 「ハルさん何の仕事してんの?」 「ハル、でいいよ。しがないフリーター。カフェバーでアルバイトしてる」 「どこ?」 「表参道。…よかったら来てよ」  
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