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彼女はバッグに手を入れ財布を取り出すとその中から名刺らしき紙を取り出した。裏に黒のボールペンでなにかを書き、そのまま机に滑らせるように僕に渡す。 「カフェ、アダム、ス」 「Cafe Adams。一応地図とか載ってるから。暇なときにでも来てよ」 「ハルはいついるの?」 「だいたいいつでもいるよ。裏にアドレス書いといたから、来る前にメールしてくれても構わないし」 そういう彼女の言葉に従うように名刺の裏を見れば、短いアドレス。「分かった」と一言呟いて、その名刺を財布に無造作に入れた。 ジントニックをまた少し口に含んで、僕は彼女の横顔を見る。「似てる」 「え?」 「俺の、…姉貴に」 「へぇ、顔が?」 「顔も中身も」 彼女はまた、「へぇ」と呟くと、僕を見つめた。 自覚すると益々重なって見えてきた。もう何年会ってないんだろうか。最後に会ったのは、いつだっただろうか。 あの人に関する記憶がひどく曖昧で、自分でも笑ってしまう。 「お姉さん、どんな人なの?」 「…ハルみたいだよ」 「もう少し詳しく」 「…そうだなあ」 あの人を言葉で説明することは難解で、結局僕は言葉を出すことが出来ないままだった。ハルは苦笑する。  
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