姉川

11/20
前へ
/142ページ
次へ
市の顔が、白を通り越して蒼に染まった。 紅をひかずとも桃色に艶めく唇も紫に染まって、いっぱいに開かれた瞳には絶望が映る。 「よいな、市姫。 お前は帰れ」 するりと、市の腕から長政の腕が抜けた。 一瞥をくれることもなく、長政は背を向ける。 長政の拒絶を受けて、市はその背を追うことも出来ない。 ああ。 ──嗚呼。 この目に見た幸福は、夢だったのか。 この手に抱いた二つの宝は。 幻だったのか──
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加