24人が本棚に入れています
本棚に追加
「だから、突き放したのですね。
北の方様は、わたくしのようには生きられないから」
市はきっと、これからますますひどくなるだろう家中の風当たりを受け流せず、まともに受けてしまう。
「それで、よろしいのですか」
長政は答えない。
二番目でいいと言った市。
長政はその優しさに甘えてきた。
けれど、自分は彼女に何を返してあげられただろう。
これから、織田との戦が熾烈を極めるほどに――浅井が滅亡へと歩を進めていくほどに。
市は、今まで以上に冷遇されていく。
それは、長政が一声掛けたところで、告げ口をしただとか、そんな具合のことを言われて悪化するのがオチで。
「これで、いいんだ」
確かめるように吐き出した長政に八重は目を細める。
「わたくしは、殿の想いなど、どうでも良いのですけれどね。
独り善がりの最善が、相手にとっても最善であるということはまずないと、ゆめお忘れなきよう」
続く、市の気持ちも少しは考えろバカタレが、という罵倒を飲み込んで、八重は裾を翻した。
長政は八重の気配が完全に遠ざかったことを確認すると、市を置いてきた方角を一瞥して。
何も言わず、奥向きを後にした。
最初のコメントを投稿しよう!