姉川

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「だから、突き放したのですね。 北の方様は、わたくしのようには生きられないから」 市はきっと、これからますますひどくなるだろう家中の風当たりを受け流せず、まともに受けてしまう。 「それで、よろしいのですか」 長政は答えない。 二番目でいいと言った市。 長政はその優しさに甘えてきた。 けれど、自分は彼女に何を返してあげられただろう。 これから、織田との戦が熾烈を極めるほどに――浅井が滅亡へと歩を進めていくほどに。 市は、今まで以上に冷遇されていく。 それは、長政が一声掛けたところで、告げ口をしただとか、そんな具合のことを言われて悪化するのがオチで。 「これで、いいんだ」 確かめるように吐き出した長政に八重は目を細める。 「わたくしは、殿の想いなど、どうでも良いのですけれどね。 独り善がりの最善が、相手にとっても最善であるということはまずないと、ゆめお忘れなきよう」 続く、市の気持ちも少しは考えろバカタレが、という罵倒を飲み込んで、八重は裾を翻した。 長政は八重の気配が完全に遠ざかったことを確認すると、市を置いてきた方角を一瞥して。 何も言わず、奥向きを後にした。
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