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泣き腫らした瞳をして戻ってきた市に、市付きを命じられた侍女はぎょっとして、何事かと駆け寄った。
「また、何かを言われたのですか……?」
おろおろと、市の顔を覗き込む。
市の優しさに付け込んで、ひどいことを言う奥女中は居る。
人並み外れた美貌というのは、それだけで、心の醜い女の憎しみの対象になる。
尤も、心が醜いと不思議と顔まで醜くなるもので、八重のように美しい女は、やはり、妬みや嫉みで自らを貶めることなく、心根まで美しい。
そして、その美しい、心に余裕のある女は、市のことを少なからず認めていることもまた、事実だ。
けれども人の噂とは何故か悪い方ばかりが目立つもので、市の耳には、市を貶す噂ばかりが届く。
「このお菊でよろしければ、そのようなことを申される方々に、微々たる仕返しを――」
「違うの」
市は緩慢に首を振って、侍女の言葉を遮った。
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