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「あのね……私、頑張るわ」
「北様は、既に立派に務めを果たされておりますよ」
「ううん。違うの。
私ね、頑張る。
長政様が、好きだもの」
帰れと言われた。
本来ならば帰るべきなのだろう。
でも。
「私ね、苦労をしたり、後悔をするのなら、長政様のお傍がいい」
命長らえることよりも。
この、悪意から解放されることよりも。
長政の傍に在れたらと願うから。
「私、帰らないわ。
誰に何と言われても、浅井家当主の妻は、私ですもの」
何かを決意した市の瞳は、相変わらず泣き腫れて真っ赤だったけれど、それまでになかった覚悟や強さが見て取れて。
嫁いだ頃から弥増す美貌を、更に凄みのあるものへと引き立てた。
――こんな、見目も麗しければ心も強い方が奥方なんて、人の根も葉もない噂を流すような醜女、殿が相手になさる訳がないわ……
侍女は感嘆と、それから、醜女への哀れみを込めた溜息を吐き出すと、市の泣き腫れた瞼を冷やす冷布を取りに、一礼して部屋を後にした。
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