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「ね?だから、申し上げたでしょう?」
部屋から退出した侍女は、角を折れたところに佇む二つの人影に、心の臓が止まってしまいそうなほど驚いた。
自慢げに胸を反らしているのは長政の側室の八重の方で、その正面で喜びと苛立ちが混ざった複雑な表情をしているのは、紛れも無い、浅井長政その人だった。
二人は何か、込み入った話をしているらしい。
今すぐ頭を下げて存在を主張すべきか、何も見なかったことにして部屋に引っ込むべきか。
いや、下手に部屋に引っ込んでは市に訝しがられてしまうだろう。
どうしよう、どうする自分。
本人も驚く速さで頭を回転させている侍女だが、長政と八重の二人がそれに気付く気配は無い。
八重はともかくとして、それでいいのか浅井家当主。
「併し……市を巻き込むのは、忍びない」
「あら、ならば、巻き込まぬよう努めなさいませ」
「そうは言うが……」
どうにも長政の歯切れが悪い。
八重は相変わらずにこにこと笑顔で、誇らしげだ。
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