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「さあ、どうします?
今一度北の方様を突き放すか。
引き返して、わた……万福丸に水飴を下さるか」
何故だろう。
侍女には、その時の八重の方の笑顔がとても残酷なものに見えた。
「…………み、水飴は、後で届けさせる……」
小声で選択した長政に、八重は満足げにうんうんと頷く。
「では帰りましょう、そうしましょう。
これに懲りたら、私事に限っては二度と、最善だとか、損得だとかで人の行く末を決めてはなりませんよ。
それと、布を浸す水は新しく井戸から汲み上げた冷たいものを使うと、とても気持ちがいいわね」
「何のことだ?」
「こちらの話です」
二人分の足音が遠ざかるのを確認した侍女は、角からひょっこりと顔を出す。
八重の方様……お見通しですか。
八重が何故、長政のみならず、市にまで慕われているのか。
その理由の一端を、侍女は垣間見た気がした。
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