姉川

20/20
前へ
/142ページ
次へ
「さあ、どうします? 今一度北の方様を突き放すか。 引き返して、わた……万福丸に水飴を下さるか」 何故だろう。 侍女には、その時の八重の方の笑顔がとても残酷なものに見えた。 「…………み、水飴は、後で届けさせる……」 小声で選択した長政に、八重は満足げにうんうんと頷く。 「では帰りましょう、そうしましょう。 これに懲りたら、私事に限っては二度と、最善だとか、損得だとかで人の行く末を決めてはなりませんよ。 それと、布を浸す水は新しく井戸から汲み上げた冷たいものを使うと、とても気持ちがいいわね」 「何のことだ?」 「こちらの話です」 二人分の足音が遠ざかるのを確認した侍女は、角からひょっこりと顔を出す。 八重の方様……お見通しですか。 八重が何故、長政のみならず、市にまで慕われているのか。 その理由の一端を、侍女は垣間見た気がした。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加