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九月十六日、浅井朝倉連合軍は琵琶湖の西岸を通り、下坂本まで進出した。
一向一揆が加勢したその軍は、三万もの大軍だったという。
ついと、長政は目を細めた。
あと一月もすれば、暦は冬に変わる。
彼の愛する近江は冬の間、深い雪に閉ざされる。
しんしんと積もる雪は、美しい。
けれど、それは時として、道を閉ざし人々を凍えさせ、命を奪う凶器となる。
信長は弱っている。
いま討たねば、浅井が行き着く先は滅びだ。
自らの手を見下ろす。
この手に握るものは、人の生活を整えるための筆であり、人の命を絶つ刃。
どんな大義名分を立てたとて、人を殺めていい道理はない。
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