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元亀二年、二月。
姉川合戦直後より磯野員昌が守ってきた佐和山城が、遂に開城した。
姉川合戦より八ヶ月。
守りに守り抜いて、けれど、結局、浅井からの支援は無かった。
「母上には、申し訳ないことをした……」
員昌はそう言ったけれど、疲れきった顔をした彼を、いったい誰が責められるだろう。
勝ち目の無い浅井に従い、一族郎党を道連れに、ただ滅んで行くくらいであれば、まだ、母を見捨ててしまった方がましだと、そう思わしめる今の状況にあって、誰が。
高島郡新庄に身柄を護送される道中、員昌は、疲れきった溜め息を吐いた。
老いた母を見捨て、それでも、選んだ。
残されていた生きる道の一つを選んで、生きようと其処に進んだ。
長政に忠義を誓ったあの日。
遠く遠く思えるそれは、まだほんの十年前だ。
十年あれば、人の心は移ろう。
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