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元亀三年正月、横山城の城将木下秀吉が岐阜に赴いている隙を突き、長政は浅井井規、宮部継潤らに横山城の攻撃を命じた。
元々はこの横山城も浅井方の支城だったが、今では浅井攻めの最前線。
前年に秀吉相手に大敗を喫していた浅井方が横山城を落とす好機は、秀吉が留守の今しかなかった。
ところが、僅かな城兵で横山城を守っていたのは、浅井方にとっては不幸以外のなにものでもないことに、竹中半兵衛重治その人だった。
ここまで来たら、とことん浅井方の動きを阻んでくれるがそれだけ有能ということなのだろうと開き直るより他はない。
更には箕浦城からの援軍も到着し、結局、浅井はまたしても横山城を落とすことなく撤退せざるを得なかった。
震える呼吸を整えて、長政は手にした書簡をゆっくりと懐に仕舞いこんだ。
大丈夫。まだ、やれる。
見込みはある。
反信長包囲網が完成しつつある。
今は織田と同盟関係にある武田も、これに倣う構えだという。
武田が、信玄が与してくれるというのなら、こんなに良いことはない。
信玄の戦上手は、甲斐から遠く、この近江の地にも届いている。
信長を取り囲めてしまえば、あとは全員で叩けばいい。
朝倉氏があてにならぬ以上、情けない話ではあるが、最早浅井一軍だけでは織田を潰すことは不可能だ。
だが、この包囲網が完成さえすれば。
信玄挙兵の報せが届き、信長を取り囲めるまで、しのげばいい。
逆を言えば浅井が落ちれば包囲網は完成しないのだから、ここは妙な意地を張って突っ走らずに、残り少ない兵力を温存しつつ守りに重きを置かなければならないだろう。
光明は見えた。
勝つのではなく、負けなければいい。
情報網の発達していない時代。
信玄が病に蝕まれた身をおしていることなど、信玄の包囲網への参戦を願う諸将が、知る筈も無かった。
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