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本来ならば、平井を労い、謝辞を述べ、慰め、絆を深めるべきだろう。
だが、その様なことが、どうして賢政に出来ようか。
胸の内で揺れ続けていた秤が、賢政の中で傾く。
それは錆び付いた様に、きっと、二度と揺らぐ事はない。
「平井。そうまでして、夫たる、このわたしに逆らうか」
平井の肩が揺れた。
華奢な肩だ。
賢政が触れれば砕けてしまいそうなほどに。
「お前は、わたしへの殺意を持ち今宵わたしに侍った。
本来ならば手打ちに致すところだが、素直にその目論見を詳らかにした事を斟酌し、離縁を申し渡すに留める。
わたしの前から消えろ」
出来る限りの不興顔を装う。
偽ると言う事はこんなにも痛みを伴うものかよと、理不尽な瞋恚を燃やさなければ、決意など直ぐに霧消してしまいそうな儚いものに思えた。
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