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何時かは選ばなければならない事であり、その結果も知っていた。 期待を寄せてくれる幾多の者を、誰より浅井一族を想う賢政が無下に扱える筈がない。 初めから、浅井一族以外の何かを選ぶことなど許されなかった。 「もっと早くに、こうするべきだった」 ほとんど意識せずに、その言葉は唇から零れ落ちた。 これほどまでに離れることを苦痛に感じる日が来ると知っていたらもっと早くに行動に移していた。 賢政は、そっと、平井を抱き寄せた。拍子に、重心を失った平井が賢政の胸に倒れ込む。 夫婦となってから初めて、賢政は妻を胸に抱いた。 平井にしか聞こえぬよう、耳打ちをする。 「わたしは近く、六角との無事を破る。 父にも、退いて頂く心積もりだ。無論、父上は未だそんな気などは無いだろうから、最悪は、父上をこの手にかけるかも知れない。 だが形だけの当主など、もう浅井一族には要らぬのだ。 それほどまでに、浅井一族郎党に積もった想いは勁い」
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