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賢政が一息に言うと、平井は、そろりと賢政の背に手を回した。 賢政の身体は筋骨が逞しく、平井の小さな手は縋るように頼りなく賢政が着る衣に皺を作った。 これが賢政の精一杯だと、平井は気付いた。 久政は兎も角として、賢政を危険視する動きは、当然六角家中にも在った。 そのために平井は嫁いだ。 賢政に不穏な動きがあれば、平井は出来る限りの情報を集め、六角方に送る。 例えば、賢政と通じた浅井一族、または家臣。 何時、どの様に、どれほどの軍勢を何処に置き、賢政が何処に入るか。何れも行く行くは知れることだ。 故に六角氏は、浅井氏から反逆の意志を摘むために、賢政の意志を利用しようとした。叛意を持つ者を炙り出し、先手を打ち、無駄だと知らしめる。 何時か来ると知っていた。 それでも、全ては六角氏の杞憂であれと願って止まなくなるほど、日毎に胸に積もる想いが在った。
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