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その想いは賢政にも在ったのだ。 ただ、賢政はそれを打ち捨てて、浅井一族を纏め、多難になろう人生を選んだ。 賢政が耳打ちしてくれた情報は、賢政の最後の愛情だ。これを土産に家に戻れば、少しは優遇されるだろう。 その優しさが嬉しくもあり、苦しくもあった。 自分は、この人の役に立てたのだろうか。 最後まで迷惑を掛け通しの、役立たずな妻だったと言われたら、いや、いっそ、そう言って欲しかった。 少しでもこの想いが薄れれば、きっと、この抉るような痛みも和らぐだろう。 平井を抱き締める賢政の腕に、いっそうの力がこもった。それは、ともすれば悲鳴の様に激しく、痛々しい抱き方。 「お前と過ごした日々は、何にも代え難いわたしの宝となった。 言葉如きでは伝えられないほど、わたしは幸福だった」 溜息にも似た囁きが耳朶を打つ。
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