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擦れ合う肌に少しばかり身を預け平井は囁き返す。 「わたくしも、幸福に御座いました」 一息置いて、消え入りそうな声で付け加える。 「風が教えた狂言など、どうして信じることが出来ましょう」 賢政がくれた土産は置いて行こうと平井は決めた。 例え、賢政が敵の大将となる日が来ようとも、その時に、この気の迷いにも似た感情のままに教えた言葉が、賢政を追いつめることになったら、きっと、平井は生きていけなくなるだろう。 こんな感情など、気付かなければいっそ、幸福だったに違いない。 「わたしは、いっそ、お前を縛り付け、わたしの傍に置いておこうかとさえ思った。 だが、違うと気付かされた。 ただ傍に在る方が、こんなに辛いとは思わなかった」 賢政が一番に大事なものなど訊くまでも無く知れている。 何時だって最後は浅井家が掌に残って、そのために賢政は父さえも見限られるほど冷たくなれた。
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