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その顔は八歳の童子のものではなく、亡き亮政の面影を、亮政を知る者の胸に蘇らせた。
猿夜叉は良い主君となろう。
乳母はそう直感した。
なれば尚更に、何としても猿夜叉を宥めなければと言う思いが、心に過ぎる。
猿夜叉ならば、きっと、浅井家に亮政の頃の栄華を取り戻してくれるだろう。
ここでその猿夜叉に下手なことがあっては、浅井家子々孫々までの痛手になるに違いない。
「いまは耐えるときです。若さまが当主になられたそのときこそはその思い、果たして下さりませ。
前に在り、駆けるだけが上に在る者の責では無いと存じ上げます」
刺さるように真剣な眼差しに、猿夜叉は目を伏せた。
「いまのわたしが出ても、足手纏いとなるか」
沈黙が、彼女なりの精一杯の答えだと、賢い猿夜叉にははっきりと解った。
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