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同月二十六日、久政は家臣の己牧院正瑞と月ケ瀬忠清を六角氏に遣わし、講和を結んだ。
尤も、それが講和とは名ばかりの浅井氏が六角氏に降る実質的な挨拶であることは、誰の目にも明らかだった。
併し、久政は六角氏の麾下に降りながらも、浅井氏の領と権限は守った。
久政が六角氏の干渉を受けることなく、以前と変わらぬ権限を保ち続けたところからそれは窺える。
猿夜叉はそんな久政なりの守り方を認めつつも、やはり心の片隅には、嘗て打倒京極氏のために皆からの期待を受けた浅井氏が、よりにもよって京極氏と同じ近江源氏佐々木氏である六角氏の保護を受けながら続いていくことへの疑念と暗雲が垂れ込めて、それが、もしものときは父に刃を向けても自分が浅井氏を盛り立てなければならないと言う覚悟を猿夜叉に決めさせた。
認めることは出来ても、そのやり方を踏襲することは出来ない。
九歳になる猿夜叉は既に、自分と父の僅かな、そして決定的な違いを、本能的に悟っていた。
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