三舞*長州の浪士

2/16
前へ
/215ページ
次へ
ところで、藤倉の営む甘味屋……の名前は"たらふく"という。 阿久津命名である。 「もう少し気の利いた名はなかったものですかね…」 「すっげぇいいと思うけどな!!」 藤倉と阿久津は少し遠出し、小豆を調達した帰り道である。 藤倉がなんとなく気落ちしている理由はというと、少し前のこと……… 『ご主人、いつものくださいな』 『はて……どちらさんでしたかな?』 小豆を卸してくれるここの問屋の主人は、少々呆けている。……商売的に如何なものなのか。 『"たらふく"の藤倉です。』 『あぁ―…』 思い出してくれたのだろうか? 『うちは鮮魚は扱っておりませんえ?』 『は………?』 『"鱈(タラ)"と"河豚(フグ=フク)"はこの先を行ったあっちの……』 横をちらりと見ると、阿久津が肩をカタカタと震わせている。 このままでは魚屋に行かなくてはならなくなりそうなので。 『…結構です。 ご主人、甘味屋の"たらふく"です』 『あ、はいはい!! 藤倉さんのところのね!!』 ――さっき言ったじゃんっ!!! キャラ崩壊寸前の藤倉は、ぐっと胸のうちで堪えた。
/215ページ

最初のコメントを投稿しよう!

223人が本棚に入れています
本棚に追加