知らない記憶

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なんだなんだと騒ぎを立てていたので、その群衆に混ざって覗いて見るとそこには一人のお侍と町娘がいて、何やらやらかしたようだった。 「どうしてくれる。気に入りの着物だぞ」 「すみまへん、本間に許しておくれやす」 「ったく…お前さんが引っ掛けたせいで破れちまった。直すのに一両は必要だ。金を出せ」 随分と偉そうな態度であるが、悪いのは娘の方。 簪で不意に、お侍の高価な着物を破いてしまったから見ている人々は何も口出し出来ないでいた。 そんな中、傍観していた友梨奈は正直、娘を可哀想に思った。こんなにも大勢の人達を前にして怒鳴られたら、さぞかし嫌な気持ちになるだろう。 懐に入っていた財布を出し、紐を解けば今月の給金の残りが入っていた 「あの、私の金で良ければ差し上げます」 何時の間にかこんな言葉を口にしていた。 人一倍お人好しな性格をしているからか、困っている人は見捨てられないのだ。 すると娘は目を丸くし、遠慮した 「こ、こんな大金!これは私が起こした問題です!お侍はんに迷惑など掛けられまへん!どうかおしまい下さい」 そう言う彼女だが、目にはたっぷりと涙が溜まっている。見逃すことなどできない。 「いいからいいから。お侍さん、このお金、丁度一両です。お願いですからこの娘を許してやってもらえますか」 「あ、ああ。これで丁度だしな」
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