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「そう簡単にできるわけがないだろうが」
口で言うのは簡単だ。誰にだってできる。
俺だって夢を語ることぐらい簡単だが、叶えられる自信がないから語らないだけ。
これは弱気になっているんじゃない。自分を、よく理解しているからだ。
総理大臣になりたい。例えば、俺がそう言ったとしよう。
そして努力した。それでなれると思うか? 一般ピーポーがそう簡単に日本のトップになれたら困る。
こういうものは運命、才能が作用してくる話だ。そうだな、総理大臣だって、過去に自分の親父やら祖父やらが政治家だった人間ばかりだ。
産まれた環境にも作用される。
その差を努力で埋めることは可能だと俺は思うが、それは果たして簡単なことだろうか。
努力は報われる。これは嘘じゃない。現に俺だってそう信じている。
が、道は余りにも険しい。
「簡単になんか、言ってないわ」
森崎ははっきりと、冷たく俺に言い放った。
「現にあたしは苦労してる」
優しい笑みを浮かべながら森崎は言った。
それは哀れみを含めたような、寂しそうな笑み。
哀れみ? 森崎は俺の心中を悟ったのか?
そんな馬鹿な。テレパシーじゃあるまいし。
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